Lifestyle

デンマークの冬。あたたかな記憶。

初めてデンマークで過ごした長い冬のこと。その時の暮らしの記憶を手繰り寄せると、心がふと、温まる瞬間があります。

デンマークの冬は、長く寒いことで知られています。真冬の日照時間はとても短く、15時を過ぎると夜が迫ってくる毎日。日中も、どんよりとしたグレイッシュな空が続き、太陽が顔を出してくれるとそれだけで1日中幸せな気分で過ごせるほど、日差しはとても貴重なもの。そんなデンマークの冬の厳しい暮らしは必然的に、家の中でいかに心地よく豊かに過ごすかが、何よりの最重要事項になります。

雪がしんしんと降り積もり、気温は氷点下。イメージ通りの北欧の冬を体現したような真冬のある日、知人の陶芸家に「ランチにいらっしゃい」と、自宅に招かれる機会がありました。彼女が氷点下で冷え切った私たちに用意してくれたのは、ほわほわと湯気が立ち上る温かなトマトスープと、香ばしい匂いが食欲をそそる焼きたてのパン。住まうひとのセンスが反映された心地よい住空間で、お気に入りのうつわとシンプルな料理で食卓を囲み、おしゃべりを楽しむ。ささいなことなのに、どこまでも心が温かく、豊かな気持ちになった瞬間でした。いまでもスープの湯気を見つけるたびに、そのときの幸福感が鮮明に呼び起こされます。

また別のある冬の日。暖炉のある部屋で、編み物が得意なご婦人に、ミトンの編み方を教えてもらったことがありました。暖炉の匂いや燃える木の音、揺らぐ炎は、どこか気持ちを穏やかに落ち着かせてくれるもの。そんな冬の匂いとともにぬくもりを感じる幸福な記憶として刻まれているのが、御婦人のお気に入りのカップ&ソーサーに入れてくれたコーヒーの湯気がある景色。冬の長い夜、食後に編み物をしたり、映画を見たり、ボードゲームをしたりと、家族や友人と過ごす時間に、デンマークの人々にとって温かい飲み物は欠かせないもの。心地よい時間=ヒュッゲなひとときにコーヒーや紅茶があるだけで、幸せな気分が倍増する作用があるのかもしれません。

長い冬。それぞれが心地いいと感じる日常のささいなひとときを大切にする気持ち。私にとって冬のデンマークの湯気のある景色は、心をふと温めてくれるものでした。みなさんは、どんな瞬間に、心地よさや幸福感を感じますか? 日常の食卓、お茶の時間、コーヒーを淹れるひととき……日常にある、心地よく、小さな幸せを捕まえながら、この冬、多くの温かな時間をお過ごしください。

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